イラク国際戦犯民衆法廷 手続き証拠規則 2004年7月16日採択


第1部 総則
第2部 法廷の組織
第1節 判事
第2節 法廷の内部機能
第3節 検事
第3部 公判前手続き
第1節 起訴
第2節 証拠の提出
第4部 法廷手続き
第1節 証拠
第2節 証拠法則
第3節 判決

第1部 総則

規則1 発効

法廷規程第13条に従って採択された手続き証拠規則は、2004年7月16日に発効する。

規則2 定義

本規則では、他に定めのない限り、用語は次のことを意味する。

規則: 発効した手続き証拠規則
規程: 2003年12月23日のイラク国際戦犯民衆法廷実行委員会(以下、実行委員会)によって
採択された法廷規程
法廷: 2003年10月20日の実行委員会によって設立されたイラク国際戦犯民衆法廷
被告人: 規則17に従って起訴状において1つ以上の訴因を持っていると確認された者

規則3 言語

(a) 法廷の使用言語は日本語および英語とする。
(b) 被告人には、彼または彼女の自国の言語を使用する権利がある。
(c) 出廷する他の者で、2つの使用言語のどちらにについても十分に通じない場合は自国の言語を使用
することができる。
(d) 事務局長は他言語から使用言語へ、および使用言語から他言語への通訳ないし翻訳のために必要
ないかなる準備もするものとする。

規則4 真正の本文
規則の日本文と英文は等しく真正である。不一致のある場合には、規程と規則の精神と一致する版が
優先する。
.
第2部 法廷の組織
第1節 判事

規則5 厳粛な宣誓

(a) 就任に先立って、各判事は次の厳粛な宣誓をする。
「私は、イラク国際戦犯民衆法廷の判事としての義務と権限を立派に、誠実に、公平に良心的に行
使すると厳粛に宣誓します。」
(b) 宣誓には、イラク国際戦犯民衆法廷共同代表の一人の立ち会いのもと、判事が署名する。宣誓は
法廷の記録に保存される。

規則6 判事の欠格事由
(a) 判事は公平さに影響を与えるような個人的な利害関係に現在あるか、あるいは過去にあった場合
には、審理に携わることができない。そのような状況にある判事は除斥され、ICTA実行委員会、
はその場合には別の判事を任命する。
(b) 当事者は上記の理由に基いて裁判から当該判事の欠格事由および忌避を裁判長に要請することが
できる。実行委員会は問題となった判事と協議し、そして必要があれば、判事団がその事柄を決定す
る。 もし、判事団が申請を是認した場合、実行委員会は無資格となった判事の代わりに別の判事を任
命する。

規則7 席次

すべての判事は、選任や任命の時期、年齢あるいは経験年数のいかんにかかわらず、司法職務の行使
において平等である。

規則8 裁判長の選出
(a) 裁判長は、1年の任期で選出される。
(b) 裁判長は、法廷を構成する判事の投票の過半数によって選出される。

規則9 裁判長の職務
(a) 裁判長は、法廷のすべての判事団会議を主宰する。裁判長は、裁判部の職務を調整し、事務局長
の活動を監督し、規程と規則によって付与されているすべてのその他の権限を行使する。
(b).裁判長は、時宜に応じて、判事団、事務局長、検事と協議の上、実務指令を発行することができ
る。当該実務指令は規程と規則にのっとり、法廷における手続き行為の詳細な諸問題に対処するため
のものとする。

第2節 法廷の内部機能

規則10 判事団

(a) 判事団は、裁判長および法廷の判事からなる。
(b) 裁判長は、法廷の機能に関連するすべての重要問題について判事団の他のメンバー全員と協議す
る。
(c) 判事は、判事団によって議論されるべきだと考えるか、法廷の判事団会議に付議されるべきだと
考える問題に判事団メンバーの注意を喚起することができる。

規則11 判事団会議
判事は下記の目的のために会議を行う。
(i) 裁判長の選出
(ii) 規則の採択と改正
(iii) 法廷の内部機能に関する事柄についての決定
(iv) 規程または規則で定める他の機能の行使。

規則12 全体会議の日付

(a) 法廷の全体会議の日付は2004年7月に決定されるものとする。
(b) 判事の要請によって裁判長は他の判事団会議を召集する。また、規程や規則のもとで裁判長がそ
のような機能を行使することが要請されているときに、判事団会議を招集することができる。

規則13 事務局長の職務

(a) 事務局長は、裁判部、判事団会議、判事、および検事の職務の行使を支援する。 裁判長の権限の
もとで、事務局長は、法廷の運営とサービス提供に責任を負い、その意思疎通のチャンネルとしての
役割を果たす。
(b) 事務局長は、その職務を遂行する際、裁判長か裁判部に対し口頭ないしは書面で特定の事件に関
連して司法決定の実行などの機能の解除に影響する、あるいは影響するかもしれない問題に関して陳
情を行うことができ、必要な場合、当事者への通知をする。
(c) 事務局長は、その活動について判事団会議と検事に報告する。

規則14 被害者・証人ユニット
(a) 適任のスタッフから成る被害者・証人セクションが、下記の目的のため、事務局長の権限の下に
設置される。
(i) 規程17条に従い、被害者と証人の保護措置を勧告すること。および、
(ii) 彼らにカウンセリングと支援を提供すること。特にこれは女性と子どもに対する暴力の場合に
必要である。
(b) スタッフの任命に際しては、適任の女性を採用するべく正当な考慮が払われなければならない。

第3節 検事

規則15 検事の職務 

(a) 検事は、規程によって付与されたすべての職務を、規程および規則に従って、また検事によって
枠組みされ得る訴訟規定に決められた職務を遂行する。 矛盾と指摘されたすべての問題については判
事団の注意が喚起され、その見解を検事は尊重する。
(b) 規則で定められた検事の権限および義務は検事が認めた事務職員メンバーによって、あるいは検
事の指示下で行動する者によって遂行されることができる。

規則16 副検事

(a) 検事は、副検事の任命について実行委員会に勧告する。
(b) 副検事は、検事の職務欠席あるいは遂行不能の場合に、あるいは検事の指示により、検事の職務
を実行する。
.
第3部 公判前手続き

第1節 起訴状

規則17 検事による起訴状の提出 

(a) 次の手続きで提出された起訴状は担当判事によって再検討されるものとする。
(b) 検事は、捜査の過程において、被疑者が法廷の管轄権の範囲にある罪を犯したと信ずるに足る合
理的な根拠を提示する十分な証拠があると確信した場合、起訴状を準備し、事務局に提出し、判事は
それを確認する。
(c) 起訴状は被疑者の氏名と特定性、事件の事実および被疑者が告発されている犯罪の簡潔な陳述
を、述べる。
(d) 判事によって確認された起訴状は事務局によって保管され、事務局は認証印のついた起訴状謄本
を用意する。
(e)起訴状中のいずれか、あるいはすべての訴因の確認によって、被疑者は、被告人の地位につく。

規則18 被告人の併合
同一事案の中で犯された同一の犯罪、または異なる犯罪について、複数の者を併合して訴追し、裁判
することができる。

規則19 犯罪の併合
2つ以上の犯罪が同一事案の中で続けて同一の被告人によって犯されたとき、1つの起訴状に併合す
ることができる。

規則20 起訴状の修正

(a) 検事は、起訴状を確認した判事か、あるいは裁判長によって任命された判事の許可を得れば起訴
状をその確認と裁判部への事件の割当ての間に修正することができる。また、事件が裁判部に割当て
られた後は、裁判部または当該裁判部の判事の許可を得て修正することができる。
(b) 裁判部への事件の割当ての後は、修正された起訴状は確認を受ける必要はない。

規則21 起訴状の公的性格

起訴状は、裁判部の判事によって確認された後、公けにされるものとする。

第2節 証拠の提出

規則22 証拠の収集と提示

検事には、証拠を収集し、それらを裁判部に提示する権限および義務がある。

規則23 被害者と証人の保護

(a) 例外的な状況では、検事は、危険な状況にいるか危害にあう高い可能性があるとみなされる被害
者や証人が裁判部の保護の下に置かれるまで、彼らの同一性の秘匿を命じるよう裁判部に申請するこ
とができる。
(b) 被害者と証人保護措置を決定するにあたり、法廷は被害者・証人ユニットに意見を求めることが
できる。

規則24 開示されない事柄

(a) 当事者、その助手、あるいは事件の捜査あるいは準備に関係した代表によって作成された報告
書、メモ、あるいは他の内部資料は、本規則のもとで公開の対象とされず、通知の対象とされない。
(b) 検事が機密を条件に提供された情報を所有し、もっぱら新しい証拠を生成する目的で使用してい
る場合、その情報と情報源は情報提供者の事前の同意なしに明らかにしてはならない。
(c) この規則の下で情報提供者の同意を得た後、もし検事がそのように提供された証言、書類や他の
材料を証拠として提出することを選択した時であっても、 裁判部は、いずれの当事者に対しても最初
の情報の提供者から受け取った補足証拠を提示するように命ずることはできない。また、裁判部が、
追加証拠そのものを得るために、その情報提供者やその代表を証人として呼び出したり、出廷を命じ
ることはできない。裁判部は、証人の出席を命じたり、あるいはそのような付加的な証拠の提示を強
いるため、あるいは、書類作成を要求するためにその権限を使用することはできない。
(d) 検事が本規則の下で規定される情報を証拠として導入するために証人を要請する場合であって
も、証人が機密性を理由に尋問に答えることを断った場合、裁判部はその証人にその情報と情報源に
関連した尋問に答えるよう強いることはできない。

規則25 ビデオによる証言
一方の当事者の要請で、裁判部は正義の観点で、証言をビデオによって受けるよう命ずることができ
る。

第四部
法廷における訴訟手続き

第1節 総則

規則26 アミカス・キュリエ(裁判所の友)

裁判部は、事件の適切な決定には望ましいと考える場合、国家、団体または個人に法廷に出廷し、裁
判部が指定した任意の問題についての情報提供するように要請、またはそうする許可を与えることが
できる。

規則27 被害者と証人の保護手段
(a) 裁判部は、当該被害者か証人、あるいは被害者証人ユニットの要請で、被害者と証人のプライバ
シーおよび保護のため、適切な手段をとるように命令を出すことができる。但し手段が被告人の権利
を侵害しないという条件が満たされていることが条件である。
(b) 裁判部は次のことを決めるために非公開手続きを持つことができる。
(i) 被害者または証人の、あるいは彼らの関係者の身元あるいは所在が広く知れ渡ることや、あるいは
メディアに知られることを防ぐ措置
(ii) 傷つき易い被害者および証人が証言を話し易くするために、一方通行閉鎖回路テレビのような適
切な手段
(c) 裁判部は、必要な場合は常に、ハラスメントあるいは威嚇を回避するために質問のやり方を制御
することができる。

規則28 公開審理

裁判部のすべての訴訟手続きは、合議を除いて、他に定めのない場合は、公開で行われるものとす
る。

規則29 非公開審理
(a) 法廷は、次の理由で、報道と一般市民を訴訟手続きのすべてあるいは一部から退去させるように
命じることができる。
(i) 社会的秩序またはモラル
(ii) 規則27で定められた被害者と証人の安全性、セキュリティあるいは身元の非公開、あるい
は、
(iii) 正義の利益の保護
(b) 裁判部は、その命令の理由を公開する。

規則30 訴訟手続きの管理

裁判部は訴訟手続きの尊厳および礼節を維持するために法廷から傍聴者を退去させることができる。

規則31 訴訟手続きと証拠の記録
(a) 事務局長は、音響録音を含むすべての訴訟手続きの正確かつ完全な記録を製作し、保管し、また
裁判部が必要と考える場合、映像録画を制作する。
(b) 裁判部は、証人保護に関連するすべての問題に正当な配慮を加えた後、非公開訴訟手続きの記録
の非開示を命じた理由がもはや存在しない時、記録のすべてあるいは一部の開示を命じることができ
る。
(c) 事務局長は、任意の実務通知あるいは訴訟手続きの配置ないしは管理に関して裁判部が何時でも
することのできる命令に従う訴訟手続きの期間に提供された物的証拠をすべて保有し保存する。
(d) 裁判の写真、録画あるいは音響録音は事務局長によってよりも、法廷の自由裁量で認可されう
る。

規則32  冒頭陳述

証拠提示の開始前に、検事は冒頭陳述を行うことができる。

規則33 証拠の提示
(a) 検事は証人を招聘し、証拠を提示することができる。正義のために裁判部によって指図されない
限り、証拠は裁判で下記の順序で示される。
(i) 訴追側の証拠
(ii) アミカス・キュリエ側の証拠
(iii) 訴追側の反対証拠
(iv) 裁判部が命じた証拠、そして
(v) 被告が起訴状にある一つないし複数の容疑で有罪と判明したとき、適切な判決を決定する裁判部
の助けになる任意の重要な情報。
(b) 主尋問と反対尋問が許可される。主尋問を行うのは主として証人を招聘した当事者である。しか
し、判事はいかなる段階でも証人に質問をすることができる。

規則34 最終弁論
すべての証拠の提出終了後 、検事は最終弁論をすることができる。
.
規則35 合議
(a) 検事がその証拠提出を終えたとき、判事は審問の終了を宣言し、裁判部は非公開で合議を行う。
(b) 裁判部の多数が、罪が合理的疑いを越えて証明されたことを確信したときにだけ、有罪の判決に
到達することができる。
(c) 裁判部は、起訴状に含まれる各訴因ごとに投票する。
(d) 被告人が起訴状に含まれていた1つ以上の訴因で有罪であると裁判部が決した場合、罪の各訴因
に関して判決を言い渡す。そして、もし裁判部が被告人の犯罪行為の全体を反映した単一の判決を言
い渡すためにその権限の行使を決定するのでないならば、そのような判決が連続的にあるいは同時に
刑期と務めることとするかどうか示す。
.
第2節 証拠法則


規則36 総則

(a)裁判部は、本節に提示された証拠法則を適用し、国家の証拠法則に拘束されない。
(b)本節に別の定めのない限り、裁判部は、事案の公正な決定に最適で、規程の精神と法の一般原
則に合致した証拠法則を適用する。
(c)裁判部は、蓋然的価値のあると思われる関連証拠を許容することができる。
(d)裁判部は、蓋然的価値より、公正な裁判を実現する必要性が上回る場合は、証拠を排除するこ
とができる。
(e)裁判部は、法廷外で獲得された証拠の真正性の証明を要請することができる。
(f)裁判部は、証人による証拠を口頭で、または、正義の利益が許す場合には、書面で受けること
ができる。

規則37 証人の証言

(a)いずれの証人も、証言を行う前に、次の正式宣誓を行う。
 「真実、包み隠さず真実を述べ、真実以外のことを述べないことを厳粛に宣誓します。」
(b)裁判部の判断では正式宣誓の性質を理解できない子どもは、裁判部の判断では、その子どもが
真実を述べる義務を知りかつ理解しているという事実を確認することができるほどに成熟していれ
ば、正式宣誓なしに証言することを許される。しかし、判決は、その証言だけに基づいてはならな
い。

(c)まだ証言をしていない専門家以外の証人は、他の証人の証言場所に立ち会ってはならない。し
かし、他の証人の証言を聞いた証人がその理由だけで証人適格を失うわけではない。
(d)上記(c)にもかかわらず、裁判部の命令によって、捜査担当者は、その者が訴訟手続きの間
に法廷に現在したという理由で、証人となることを妨げられない。
(e)証人は自分が罪に問われる恐れのある証言をすることを拒否することができる。

規則38 一貫した行動パターンの証拠

規程のもとでの国際人道法の重大違反に関連する一貫した行動パターンの証拠は、正義の利益によっ
て許容される。

規則39 司法的認知

(a)裁判部は、公知の事実の証明を要求してはならず、司法的認知を行う。
(b)検事の要請により、裁判部は、当事者の聴聞の後、当該訴訟手続きにおける係争点に関する裁
判部の他の手続きから認定された事実や文書証拠を司法的認知とすることができる。

規則40 専門家証人の証言

当事者によって召喚された専門家証人の完全な証言は、裁判部の指定期限までは非公開とされる。

規則41 一定の証拠の排除

信頼性を疑わせるような方法で獲得されたり、その証拠を許容することが訴訟手続きの完全性に反す
る、そして重大な損害を与える場合、証拠は許容されない。

規則42 性暴力事件における証拠

性暴力事件では、
(i)被害者の証言に補強証拠を要求してはならない。
(ii)同意の存在は、次の場合には、抗弁とは認められない。
  (a)被害者が、暴力、抑圧、拘禁または心理的抑圧に服していたり、威嚇を受けていたり、そ
れを恐れる理由があった場合。
  (b)被害者が、服従していなくても、他の者が服従させられ、威嚇され、その恐れをもってい
ると信じたことに理由があった場合。
(iii)被害者の同意の証拠が許容される前に、被告人は裁判部にその証拠が関連があり信用でき
ることを確認する。
(iv)被害者の以前の性的行動は、証拠として許容されない。

第3節 判決

規則43 判決

(a)判決は、公開で、当事者に告知された期日、当事者が出頭できる権利を与えて、言い渡され
る。
(b)裁判部は被告人が有罪であると判断し、被告人がその罪から不法に財産を入手したという結論
に達した場合、判決においてそれに関する特別の理判断を示す。裁判部は賠償を命じることができ
る。
(c)判決は判事の多数によって言い渡される。
(d)判決の写しは法廷の使用原語でできる限り早く被告人に交付される。

規則44 勧告

(a)裁判部は、国際人道法の重大な違反を犯した者、関係政府および国際社会に勧告を行う。
(b)裁判部は、勧告を行うに当たり、国連人権委員会および人権促進保護小委員会の特別報告者が
提出した文書を参照することができる。

規則45 国家責任

個人の刑事責任に関する規程および規則のいかなる規定も、国際法のもとでの国家責任に影響を与え
ない。

規則46 被害者補償

(a)事務局長は、被害者に被害をもたらした犯罪につき被告人を有罪とした判決を関係国家の権限
部局に送付する。
(b)関係する国家の法律に従って、被害者や被害者を通じて要求するものは補償を得るために国内
裁判所その他の権限部局において訴訟を提起することができる。
(c)規則(b)によってなされた要求のために、裁判部の判決は、その被害について有罪とされた
者の刑事責任については最終的なものである。